everyone will love him


と、思ってもそううまくはいかないもので。
「居ねえ…」
ダッシュで向かった先のゴールに居る筈の姿は無く。
昂った想いはどこへぶつければいいのか。

大袈裟に開け放ったマルコの部屋のドアの前で立ち竦み視線を落として、ボウッと燃やした心の火種をそっと消した。無人の部屋はやけに寂しそうな表情をしているように見え、足を踏み入れる。
机には整頓され山積みにされている書類。
一番上に乗せられていた書類の1ページを捲って覗いて見ただけでも、文字の多さに既に「うげぇ」の言葉が吐き出される。

この部屋も何度も来た事があったけどこんなにじっくりと見た事は無かった。ここはマルコの匂いがする。優しい青の香りがする。青い空の香りがする。
床に落とされれていた青い羽を見つけ、崩さないように丁寧に拾い上げるも、それは手の熱によって幻のように崩れ消える。
まるで、今の自分の心境を表しているようだった。そこに形はあるものだと思っていたのに、知ろうとすれば消え去る。掴めない。

「おい」
消え去った青い羽に重ねる自分の心境を手の平を見つめながら答えを出そうとしていた矢先、ドア付近からの唐突の声に自分でも驚く程の仰天顔で振り返る。
「どうした?エース。マルコ隊長なら偵察で2、3日帰って来ないぜ?」
そこに居たのは、彼が取巻く隊の隊員。不在のはずの隊長の部屋からの人影に、気になり覗きに来たというところだろう。
咄嗟にポケットに手を隠し、早足に部屋を抜けすれ違い様にその隊員の肩を軽く叩いて、礼を告げるとそそくさと甲板の方へ戻っていく。
エースはモビーディック号に乗船してから1人になる事がほとんど無い。1人にして貰えないというのが正しい表現かもしれないが、彼の取巻く天性の見えない魅力に人は引き寄せられてしまう。


そんな彼に密かに恋心を抱いている仲間も少なくない。屈託の無い笑顔が自分だけに向けられれば幸せこの上ない、と考えるのは1人ばかりではないだろう。女に困った事がない、隊長クラスまでもが彼の魅力に惹かれそう感じてしまうのだからこれ以上の説得力はない。
只、そんなエースに俗に言うコイバナ等しても素っ頓狂顔で、続けられるは本人の話ではなく弟の話へ移行してしまう。彼に恋は早いと、安心する者も居れば流石に18歳になって良くないだろうと心配する声を上げる輩も少なくない。だからこそ、仲間が「我こそは!」と勘違いを大きく含めた奴が後を絶たないのだろう。
そんなエースを長らく近くで見てきたサッチからすれば、彼に対する心の傾きは手に取るように丸見えだった。しかし、エースもああ見えて本人の前ではなんて事無い表情で接する。
本人がそれが恋なのだと自覚が無い事も影響しているのだろうが。
マルコもマルコで目付きの悪さと厳しさはこの広い海の1、2位を争う彼が最近、エースを見る目が優しくなった。これもまた無自覚なのが憎たらしい。

オレから見たらバレバレなんだよっふたりして。
つまり何が言いたいかと言うと、オレ独りぼっちじゃね…っ!?
いいの!?オレ独りにしていいわけ!?

「サッチ!なにしてんだ?」
表情の七変化を続けるサッチを遠目に見てたエースが漸く眉を寄せて可笑しそうに笑いながらパンチを胸に食らわせ、横へ立つ。
「ぐは、いてえよなんだよ!」
「なんかエロい事考えてんじゃないかと思って」
悪いかよと悪付いてやれば疑う様子も無く、高らかに笑い飛ばすと吸い寄せられるように海へ目を映す。
身体ばかり戦闘用に鍛えられた筋肉が大人並みについているものの、その横顔はまだあどけなさが残る子供だ。
「やっぱちっとさみぃね。でも冬島の近くは空気が澄んでるからオレ好きだな」
戦闘時に見せる勇ましさはどこへやら、そう笑う顔は若干18歳の顔付きである。
「サッチ隊長、エース隊長お話し中の所すいません!オレ、エース隊長にお話がありまして…」
その話口調は海軍出かと突っ込みたくなる程、周りにも響き渡る口調。縁に肘を掛け更に手の上に顎を乗せていたエースは身体ごとそちらへ向き直し、縁に後ろ肘を付いて寄り掛かる。微かに頬を染めている仲間の表情と状況を見て察するのがサッチである。
見る顔は一番隊の隊員か。
「お−なんだ。深刻な話?場所変える?」
「いえ、大丈夫です。あの…オレ…っエース隊長の事、好きですっ」
船上中に響く声。仲間の視線も全てがこちらへ向く。
告げられた当の本人は驚くでもなく、きょとん顔で視線を周りから感じている事に周囲を見渡す。頭上に?マークを乗せたまま、視線をその主に戻すと彼の肩にポンと手を乗せ目を細める。

「おう、オレも好きだぞ。家族は皆好きだ」
きょとん顔も納得の返答。無頓着すぎるのか、鈍感過ぎるのか、恋愛に対しての興味が全く無いのか、その場に居合わせた家族全員が詰めていた息を大きく吐く。
納得のいく返答を貰えなかった主が言葉を続けようと唇が震え開いた瞬間、それを邪魔するかのような大きな羽音が頭上で響いた。
「マルコ隊長っ」

透き通る青い空に広がる雲の程、自然に馴染む青い鳥。羽を広げればその姿は圧巻されるほどの大きさと、どこか儚げな美しさを持つ。下から見上げた際に、空に溶け込むその姿を見た者は幸せになれるとまでも言うジンクスが作られる程。
その姿の正体はこの船に乗る誰もが知っていたが、普段任務から帰ってくる時は自室の前で降り身の周りをある程度整えた後に仲間の前へ姿を現し任務報告を行うのだが、今日ばかりは主の横へ降り立ち、姿を戻した。
「すまんねい。着地に失敗したよい」
マルコに限って怪我でもしてない限りそんな訳がない。そう言いたげな目で見ているのはサッチのみ。しかし、自分を取巻く隊長が来てしまってはこの話はどうも続けにくい。逃げるように立ち去ってしまった主に対して名残惜しそうな声を出したのはエースである。

「マルコ、2、3日じゃなかったのか?」
「ああ、早く終わってねい」
ああ、やっぱり。顔を見ただけで心臓がうるさく騒ぎ出す。落ち着け、落ち着けと聞かせれば聞かせるほど高く。
「エース」
帽子で表情を隠すように俯いていた顔を、名を呼ばれれば上げざるを得ない。
「なに?」
「話あるんだよい」
脳まで覗かれてしまいそうな真直ぐな視線に目を離せない。
見てられずにか、気を利かせてかサッチが音も立てずにその場を去る。
短く小さい音を発した後に頭を振るように視線を外して、自分の襟足を掻く。
少しの沈黙の後、エースがようやく唇を開き、
「オレも…あるんだ」
教えてもらいたい事が。

マルコの後を着いて行くように、彼の部屋へと向かった。



-*TO BE CONTINUE*-